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実録 05

2冊目が
1冊目を食べた話

売れている本の続編を出しました。伸びるはずでした。
伸びたのではなく、1作目の売上が落ちました。

私の本の中で、いちばん反応がよかったのは、ある有名な個人投資家の手法を分解した本でした。だから当然、こう考えました。「同じ題材で、もっと踏み込んだ第2弾を出せば、もっと売れる」

結果は逆でした。

何が起きたか

なぜ食い合ったのか

あとから考えれば、当たり前のことをしていました。

1. 同じ検索語を、2冊で取り合っていた

読者はまず人名や手法名で検索します。1冊しかなければ、その検索結果には1冊しか出ません。2冊出すと、同じ検索結果に自分の本が2冊並びます。

ここで起きるのは「2冊とも買われる」ではありません。「どちらか選んで、1冊だけ買われる」です。しかも読者は迷います。迷いは購入率を下げます。

需要は増えていません。分割されただけです。 同じ読者・同じ検索語を狙う本を2冊出すのは、増やす行為ではなく割る行為でした。

2. ランキングとレビューが分散した

Amazonでは、売上が1冊に集中しているほうがカテゴリ順位が上がり、上がるとさらに見つけてもらえます。2冊に割れると、どちらも中途半端な順位になります。

レビューも同じです。1冊に10件付くのと、2冊に5件ずつ付くのとでは、読者から見た信頼度がまったく違います。レビューは足し算できません。

3. 「続編」は、新しい読者を連れてこない

いちばん大きな勘違いがこれでした。続編はすでに1作目を知っている人にしか届きません。つまり新規の入口を作っていない。

市場を広げていないのに商品だけ増やせば、1人あたりの売上を分け合うことになります。

撤退の判断

内容は悪くありませんでした。むしろ検証データの量では1作目を超えています。それでも止めたのは、判断の軸を「本の出来」ではなく「合計の売上」に置いたからです。

使った基準はひとつだけです。
2冊の合計が、1冊だけだったときを下回ったら止める。
個々の本が何冊売れたかは見ません。合計だけを見ます。

この基準の良いところは、感情が入らないことです。書いた本を引っ込めるのは辛いので、基準を先に決めておかないと「もう少し様子を見よう」と言い続けることになります。

販売休止は、取り返しがつきます

知っておくと気が楽になる点があります。KDPの販売停止は、削除ではありません。いつでも再開できますし、原稿も表紙も残ります。差別化して作り直せば、また出せます。

「一度出したら引っ込められない」と思って粘るほうが、損失は大きくなります。

その後どうなったか

撤退から3週間後、8月の実売データがこうなりました。

8/1〜17の販売状態
1作目4冊26冊中2番目に売れた
姉妹編(販売再開した本)2冊通常どおり
第2弾販売休止中

1作目は上位に戻りました。ただし、これは撤退だけが理由だとは断言できません。夏の需要や他の施策も同時に動いています。それでも「割れていた状態を解消したら、元の本が戻った」という形にはなっています。

続編を出す前に、確認すること

この経験のあと、次のチェックを通してから企画を決めるようにしました。

問い危険なサイン
読者はどんな言葉で検索するか既刊とまったく同じ語になる
この本の読者は誰か既刊を読んだ人しか思いつかない
既刊と並んだとき、読者はどう選ぶか説明が要る=迷わせている
1冊にまとめられないかまとめられる。増補で足りる
いちばん効く問いは最後のものです。 第2弾で書きたかった内容は、実は1作目の増補で足りました。 実際その後、1作目に幕間と巻末Q&Aを足して大幅に増補しています。 新しい本にすると割れますが、同じ本を厚くすると割れません。 評価もランキングも1冊に積み上がります。

まとめ

本を増やすことが正しい、というのは売上の実データのとおりです。ただしそれは違う入口を増やすという意味であって、同じ入口に本を並べることではありませんでした。