実録 05
売れている本の続編を出しました。伸びるはずでした。
伸びたのではなく、1作目の売上が落ちました。
私の本の中で、いちばん反応がよかったのは、ある有名な個人投資家の手法を分解した本でした。だから当然、こう考えました。「同じ題材で、もっと踏み込んだ第2弾を出せば、もっと売れる」
結果は逆でした。
1作目と同じ投資家を題材に、検証データを大幅に増やした本。内容の密度は明らかに上でした。
第2弾はそこそこ売れました。しかし合計は増えず、1作目の減った分が第2弾に移っただけという動きになりました。
2冊あるのに、1冊だったときより売れていない。ここで「増えていない」ではなく「減っている」と認識しました。
刊行から2週間での撤退。同時に、第2弾を出すときに止めていた別の本を販売再開しました。
あとから考えれば、当たり前のことをしていました。
読者はまず人名や手法名で検索します。1冊しかなければ、その検索結果には1冊しか出ません。2冊出すと、同じ検索結果に自分の本が2冊並びます。
ここで起きるのは「2冊とも買われる」ではありません。「どちらか選んで、1冊だけ買われる」です。しかも読者は迷います。迷いは購入率を下げます。
Amazonでは、売上が1冊に集中しているほうがカテゴリ順位が上がり、上がるとさらに見つけてもらえます。2冊に割れると、どちらも中途半端な順位になります。
レビューも同じです。1冊に10件付くのと、2冊に5件ずつ付くのとでは、読者から見た信頼度がまったく違います。レビューは足し算できません。
いちばん大きな勘違いがこれでした。続編はすでに1作目を知っている人にしか届きません。つまり新規の入口を作っていない。
市場を広げていないのに商品だけ増やせば、1人あたりの売上を分け合うことになります。
内容は悪くありませんでした。むしろ検証データの量では1作目を超えています。それでも止めたのは、判断の軸を「本の出来」ではなく「合計の売上」に置いたからです。
この基準の良いところは、感情が入らないことです。書いた本を引っ込めるのは辛いので、基準を先に決めておかないと「もう少し様子を見よう」と言い続けることになります。
知っておくと気が楽になる点があります。KDPの販売停止は、削除ではありません。いつでも再開できますし、原稿も表紙も残ります。差別化して作り直せば、また出せます。
「一度出したら引っ込められない」と思って粘るほうが、損失は大きくなります。
撤退から3週間後、8月の実売データがこうなりました。
| 本 | 8/1〜17の販売 | 状態 |
|---|---|---|
| 1作目 | 4冊 | 26冊中2番目に売れた |
| 姉妹編(販売再開した本) | 2冊 | 通常どおり |
| 第2弾 | ― | 販売休止中 |
1作目は上位に戻りました。ただし、これは撤退だけが理由だとは断言できません。夏の需要や他の施策も同時に動いています。それでも「割れていた状態を解消したら、元の本が戻った」という形にはなっています。
この経験のあと、次のチェックを通してから企画を決めるようにしました。
| 問い | 危険なサイン |
|---|---|
| 読者はどんな言葉で検索するか | 既刊とまったく同じ語になる |
| この本の読者は誰か | 既刊を読んだ人しか思いつかない |
| 既刊と並んだとき、読者はどう選ぶか | 説明が要る=迷わせている |
| 1冊にまとめられないか | まとめられる。増補で足りる |
本を増やすことが正しい、というのは売上の実データのとおりです。ただしそれは違う入口を増やすという意味であって、同じ入口に本を並べることではありませんでした。